本研究室の研究に対するモチベーション
~シリコン半導体と融和する革新的ナノデバイスでAI・IoTの基盤となる集積化技術を創出~
現代の情報化社会においてはハイエンドサーバがクラウドという形でITインフラを支え、スマートフォンなどの携帯端末や色々なセンサがエッジデバイスとして価値あるサービスをもたらし、私たちの生活をより快適なものにしています。これらの電子機器の中核は半導体集積回路です。現在の集積回路は驚くことに10億個以上もの半導体デバイスで構成されています。特にトランジスタの大きさは10nmよりも小さい驚くべき領域に入って来ています。一方、AIやIoTという新しいアプリケーションの時代をむかえ、従来の集積回路技術そしてその基盤となる半導体デバイス技術には新たな革新が求められています。本研究室では集積回路・システムが新たな価値を創出するために、革新的なナノデバイスとその集積化技術を探求しています。
(1) 新しい動作原理・構造による次世代トランジスタ技術
集積回路の低消費電力化を実現するにはトランジスタを駆動する電源電圧を下げることが最も効果的です。しかし単純に電源電圧を下げると今度は駆動電流が下がり回路の動作速度が落ちる問題があります。このトレードオフを解決するためにはトランジスタ急峻にスイッチさせなければなりません。ところがトランジスタのスイッチングの急峻さを表すサブスレショルド係数には、熱統計物理学で規定される60mV/dec(室温)という物理限界があります。この物理限界を打破するアプローチとして、負性容量トランジスタがあります[5]。負性容量トランジスタ(NCFET)は強誘電体薄膜をゲート絶縁膜とするトランジスタで、実効的にチャネルの表面ポテンシャルを増幅し、急峻にトランジスタを立ち上げることができる大変興味深い技術です。私たちはNCFETのデバイス物理を追求する[2,4,6,7]とともに、の超低電圧動作のための設計指針を提案し[1,3]、実際にデバイス試作をして急峻サブスレショルド係数の実証とそのメカニズムの解明に取り組んでいます。
Reference: [1] M. Kobayashi et al., VLSI symposium (2015), [2] M. Kobayashi et al., IEDM (2016), [3] M. Kobayashi et al., IEEE Transactions on Nanotechnology (2017), [4] C. Jin et al., IEDM (2018), [5] M. Kobayashi, Applied Physics Express (Review) (2018), [6] C. Jin et al., VLSI Symposium (2019), [7] C. Jin et al., IEEE Transactions on Electron Devices (2020).
(2) 次世代強誘電体材料を用いた大容量・低消費電力メモリデバイス技術
データ駆動型社会においてはビッグデータの利活用が欠かせません。しかしIoTエッジデバイスで取得されクラウドに送られるデータ量はデータセンターのトラフィックよりはるかに大きく、ビッグデータの最大限の利活用が難しい状況です。そこでIoTエッジデバイス自体に大容量なメモリを搭載して機械学習を実行し、抽象化されたデータのみをクラウドに送る仕組みが重要になります。IoTエッジデバイスは利用できるエネルギーに制約があるのでメモリは低消費電力であることも不可欠です。私たちは半導体集積化技術と相性の良い強誘電体HfO2材料に注目して長年研究を行っています。HfO2薄膜における強誘電性発現のメカニズムの解明[5]から、強誘電体キャパシタをSRAMに集積した不揮発性SRAM(NVSRAM)によるスマート電源管理技術の開発[1]、超高密度メモリに向けた強誘電体トンネル接合(FTJ)メモリの設計・実証・理論性能予測[2,3]、三次元積層型強誘電体トランジスタ(FeFET)の実現に向けたチャネル材料・動作原理の研究開発[4,6]、など様々なテーマに取り組んでいます。
Reference: [1] M. Kobayashi et al., VLSI Symposium (2017), [2] F. Mo et al., IEDM (2018), [3] M. Kobayashi et al., IEEE Journal of Electron Devices Society (2019), [4] F. Mo et al., VLSI Symposium (2019), [5] J. Wu et al., Applied Physics Letter (2020), [6] F. Mo et al., VLSI Symposium (2021, to be presented).
(3)酸化物半導体と次世代不揮発性メモリの三次元集積化によるニューロモルフィックコンピューティング技術
ディープラーニングをはじめとする機械学習がイノベーションの源泉となっています。現在これらのアルゴリズムはパワフルなCPUやGPUを用いてソフトウェアによって実装されています。この実装は容易ではありますが、消費電力が大きいことが課題となっております。特に(1)で述べたIoTエッジデバイスで機械学習を行うにはよりエネルギー効率の高いコンピュータアーキテクチャが必要です。そこで近年注目されているのが、脳の計算機構を模したニューロモルフィックコンピューティングです。人工ニューラルネットワークがその代表例ですが、ニューロンとシナプスをメモリアレイと回路技術で実装することで、ベクトルデータと行列データの超並列計算が可能となります。通常人工ニューラルネットワークは二次元平面上に構成されるますが、私たちは酸化物半導体トランジスタ技術と(2)で述べたFTJなどの次世代不揮発性メモリの三次元集積技術で、より「立体的に」に実装することでデータ伝送効率を改善し、高エネルギー効率にハードウェア実装するための技術を研究開発しています[1,2]。
Reference: [1] J. Wu et al., VLSI Symposium (2020), [2] J. Wu et al., VLSI Symposium (2021, to be presented).
過去の研究内容はこちら